ティアフォー Perceptionチームの蓑田浩史です。 2024年1月、ティアフォーのメンバー5名で中国旅行のかたわら、中国の自動運転タクシーや最新のEVを体験してきました。このブログでは、昨年のアメリカでの調査に続く第二弾として、中国での体験をエンジニア視点でまとめた内容を紹介します。アメリカの記事についてはこちらをご覧ください。
中国はアメリカに並んで自動運転技術の研究開発が盛んで、BaiduやHuaweiなどの大企業が直接的・間接的に自動運転(AD)や先進運転支援システム(ADAS)の開発に取り組んでいます。これらの技術は既に実用化されつつありますがインターネット上の情報のほとんどが中国語であり、日本で使用されている動画配信サービスに自動運転の様子が投稿されることもほとんどなく、情報が取得しづらい状況でした。
そこで、今回は実際に広州・深センに足を運んで、Baidu Apollo、WeRide、Pony.aiの自動運転タクシーやバスを直接体験し、各地のモールなどに展示されているレベル2+やレベル2++の機能が搭載された新興メーカーのEVを見学してきました。また、中国在住(リモート勤務)のティアフォー社員に聞いた現地の最新動向についても解説します。
全体を通して、いずれも非常に良い乗車体験でした。自動運転タクシーでは配車アプリが利用され、サービスの完成度も十分高いと感じました。ただ、アメリカのWaymoやCruiseと異なり、基本的にはセーフティードライバーが乗車しています。また、オーバーライド(自動運転システムから手動運転への切り替え)も何度かあり、その点ではアメリカが一歩先を行っているような印象を受けました。また、中国の身分証番号がないと乗車できないので、注意が必要です。
中国の検索エンジン大手、Baiduの自動運転タクシーApollo Goです。Apolloはオープンソースの自動運転開発プラットフォームであり、たびたびAutowareと比較されます。中国全土の10都市以上で走行しており、今回は深センで乗車することが出来ました。
北京汽車グループのEVブランド ARCFOXをベースに開発されており、自動運転レベル4の課題の一つである車両コストを従来の3分の1に抑え、48万元(約1000万円)という低価格を実現しています。LiDARの数がWaymoやCruiseに比べて少なく、後方や側面はどのようにカバーしているのかが気になりました。
乗車方法は、BaiduMapやWeChatのミニアプリからユーザー登録をし、乗車場所と降車場所を選択し予約します。ユーザー登録には中国の身分証番号が必要です。 Apolloの他社との違いは、セーフティードライバー向けのUIとしてWebアプリを採用している点です。ボイスメモや事故報告などを行うためのボタンがあり、自動運転車が想定外の挙動やトラブルに遭遇した際に記録を残せる体制を整えているようでした。私たちが乗車した際には、セーフティードライバーが操作している場面を見ることはありませんでしたが、乗客向けUIとは異なる情報が表示されているのが印象的でした。
セーフティードライバー向けUI
乗客向けUIはPony.aiやWeRideなど他社のUIと似ており、周辺の物体の可視化と速度や信号情報を表示するシンプルなものでした。私たちが乗車した際はタッチパネルがフリーズしてしまい、操作できませんでしたが、音楽をかけるなどのエンターテインメント要素も取り入れられています。
乗り心地に関しては、帰宅ラッシュの時間帯であったにも関わらず不自然な挙動が少なく、とても快適でした。他のメンバーが乗った際は、左折時にブザーが鳴り、セーフティードライバーがオーバーライドする場面もあったようです。
私たちがApollo のタクシーに乗った日は、走行している車両数が少ないからか、乗車までかなりの待ち時間が発生していました(場所が悪かったこともあり、3時間以上待ちました)。深センでApolloに乗車されたい方は、時間に余裕を持ってトライされることをおすすめします。
WeRideは中国広州市に本社をおく、グローバルな自動運転開発企業です。 今回訪れた広州オフィス付近はその「お膝元」とあって、タクシーやバスはもちろんのこと、清掃車にもWeRideの自動運転車両が走っており、「自動運転の街」とも言えるような近未来感がありました。
WeRideが2020年に中国で初めて完全無人運転車の公道試験を認可されたのもこの広州市ということもあってか、通行人も自動運転車両を物珍しく見ている様子もなく、既に自動運転が日常の一部となっているようでした。
WeRide 自動運転バス
本社付近では巡回バスが一般向けに開放されており、無料で乗ることができました。 走行はスムーズでしたが、私たち乗客から見ると接触するんじゃないか、というほどギリギリで路上駐車を回避したりと、少々アグレッシブなように感じました。
驚いたことに、前方をゆっくりと走っていた車両に対し、バスがクラクションを鳴らしました。日本ではクラクションの使用は原則禁止されており、実際に鳴らす人はほとんどいません。日本人からすると、自動運転車両がクラクションを鳴らして他の車を喚起する挙動はアグレッシブに感じられました。しかし、中国の車の多い市街地に出てみると断続的にクラクションが聞こえてくるので、興味深い文化の違いだと思いました。
WeRide本社前に集合する自動運転車両
定時になると本社の前に自動運転のテスト車両が集合していました。本社周辺ではこのように数多くのテスト車両が走っており、WeRideの自動運転にかける本気度を感じることが出来ました。ティアフォーも負けずに日本で早く自動運転を推進して行きたいと、改めて強く思わされました。
本社周辺のサービスエリア内では自動運転タクシーに乗ることが出来ませんでしたが、同じ広州市の別のサービスエリアで同型の車両によるタクシーを利用することができました。
WeRide自動運転タクシーの車内の様子
利用したのは帰宅ラッシュの時間帯で、道がかなり混み合っていましたが、持ち前のアグレッシブかつスムーズな走行で無事に目的地に到着することができました。保守的な自動運転システムだと立ち往生したり右往左往してしまうであろう難しい場面もたくさんありましたが、状況に応じて道路のレーンを跨いだまま走行するなど、熟練ドライバーのような決断力といい意味での曖昧さを持っているシステムだと感じました。
Pony.aiは、Baiduの出身者が2016年に設立し、本社はアメリカ合衆国・カリフォルニア州フリーモントにあり、中国・広州にも拠点を置いています。
私たちは広州の香港科学技術大学の友人に会う際に、キャンパスの入口から近くの駅まで乗車しました。Pony.aiの自動運転タクシーはPonyPilot+アプリやON TIMEという大手配車アプリから予約することができます。
走行はスムーズでした。路駐車の多い道路でも、周囲の車を考慮しながら華麗に回避していました。また、路肩に駐車する際も、うまく路駐車の間を見つけて停まることができました。交通量が適度で、走行距離も短かったこともあり、オーバーライドは一度もありませんでした。
ドライバー用ディスプレイに表示された制御ボタン、スピード、ルート情報
後部座席にも乗客用のモニターがありました。シンプルなローカルルートと、乗車料金や目的地までの時間や距離が映されていました。
他社と比較すると、中国の自動運転車とはあまり変わらない印象ですが、アメリカの自動運転(WaymoやCruise)と比べるとアクセルやステアリングがややクイックで、細かい動きができる印象でした。
運転手横のモニターには、ドライバー用の操作ボタンや速度表示等がありました。ローカルルートの他にも広域ルートも映し出されており、完成度が高かったです。
中国は自動運転レベル4だけでなく、レベル2やレベル2+/2++の開発が盛んな国でもあります。広州・深センのモールには多くの車が展示されていました。その一部を紹介していきます。
まずはNIO ES7です。なんとこの車はSeyond(旧Innovusion)社製のLiDARを搭載しています。モールの真ん中にLiDAR搭載の車が展示され、さらにはそれを購入できるという事実に非常に驚きました。
加えて、展示員の方が、車に搭載されているNVIDIA Drive ORINや8M pixのカメラ、TOPSの数、LiDARが搭載されている事などをアピールしていたことも印象深かったです。アピールをするということは、車の購入者がこれらの要素を意識しているということになります。
LiDARは、車両のデザインや空力性能を損ねるものとして扱われることも少なくありません。現地在住のティフォー社員の話では、NIOのマーケティングのお陰で、EVを好んで購入するユーザの間に、「LiDARを搭載しているのは高級車の証」というイメージが浸透してきているそうです。これも大きな驚きでした。
Li Auto(理想汽车)のL7も展示されていました。この車にはHESAI社製のLiDARが載っています。余談ですが、Li AutoはBEV-CLIPという、自動車から得られるセンサデータからの画像検索用モデルの論文もarxivに公開しています。自動運転のパーセプション開発・評価はいかに多くのデータを収集出来るかが重要になります。車両に搭載したセンサで走行データを集め、重要なものを選択・保存し、大規模にアノテーションするという戦略を描いているのだと思います。LiDARが自動運転システムにどの程度使用されているのかは不明ですが、LiDARを搭載しデータを収集すること自体が、今後への投資に繋がります。そういう面でも、LiDARを搭載した車が販売され始めていることは重要な事実だと感じました。
Li Auto L7
現在収集したデータが企業の数年後の力に繋がる、という戦略はLi Autoを含む多くの企業が理解し、実践しています。ではティアフォーはどうするのか?ティアフォーはオープンなエコシステムの力を信じており、それぞれの企業が内部にデータを蓄え、データを背景としたパワーで寡占を目指す世界ではなく、多くのパートナーとデータを共有し、エコシステム全体での開発促進を目指しています。Co-MLOpsプロジェクトを通じて、このような世界を実現する取り組みを進めています。Co-MLOpsの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
Huawei Luxeed S7は車載インフォテインメント(IVI)が非常に面白いです。Harmony OS搭載のナビを用いて、ADAS機能の設定や周囲物体の認識結果が表示できます。
この車にもLiDARが搭載されています。IVIに表示されている認識結果がカメラによるものなのかLiDARによるものなのかを確かめるために、LiDARやカメラを塞いでみたところ、カメラを隠すと認識結果がかなり乱れました。現行システムではカメラのみを用いて周囲物体を検出しており、LiDARはデータ収集専用なのかもしれません。
カメラやLiDARを隠して挙動を確認するティアフォーのエンジニア
他にも、XpengやAIONのEVが深センや広州のモールには数多く展示されていました。共通して感じられたのは、LiDAR搭載の車が当たり前のように展示されていること、そしてかなり自由にデザイン性を追求した車作りをしていることでした。
たとえばHuawei Aito M9ですが、外向けHMI(eHMI)として時計が備えられています。自分が企画に携わっていたら時計って必要かな?と思ってしまうかもしれません。
Huawei Aito M9
AIONの車にはカラオケマイクやプロジェクター、マッサージ機が搭載されていました。カラオケを載せた車を作ろうと思いつくことはあっても、実際に形にして販売まで進められるかと言うと話は別です。かなり自由な発想で車作りが行われていると感じました。
今回の自動運転技術の調査では、Baidu Apollo、 WeRide、 Pony.aiに乗車し、EVの展示車に触れました。各社の取り組みは、限定区域の自動走行である自動運転レベル4に着実に近づいています。また、乗り心地を保ちながら可能な限り機敏な運転であった印象を受けました。今後、走行回数を重ねてエッジケースを潰して行くことにより、近い将来ドライバーレスでの走行が可能になると感じました。
本記事は以下のメンバーの協力により、蓑田 浩史が執筆しました。
Koji Minoda | 蓑田 浩史
Perception Team
東京大学大学院・航空宇宙工学科修士課程修了。2022年4月入社。2020年11月からパートタイムエンジニアとして勤務。現在はPerceptionチームで、データセット構築による機械学習モデルの性能改善業務をリード。
ティアフォーでは、「自動運転の民主化」というビジョンに共感を持ち、自らそれを実現する意欲に満ち溢れた新しい仲間を募集しています。
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