システムソフトウェアチームの今井です。昨年の秋、2024年に入社した新入社員7人でアメリカのサンフランシスコとロサンゼルスで自動運転車両を体験してきました。今回のブログでは、その調査結果を報告します。
今回の調査では、Waymoの自動運転タクシーに複数回乗車し、Tesla車両をレンタルしました。以下に所感をまとめます。
Waymo(サンフランシスコ)
Waymo(ロサンゼルス)
Tesla
WaymoとTeslaは、どちらも洗練された自動運転車両ですが、その走行可能領域には大きな差があります。Waymoの自動運転タクシーは、2025年3月時点でサンフランシスコ、ロサンゼルス、フェニックス、オースティンの4つの都市にサービスエリアが限定されています。一方、Teslaは量産車に自動運転機能を搭載しており、世界中のあらゆる領域を走行可能です。
ただし、TeslaがWaymoを性能面で上回っているとは必ずしも言えません。Teslaの自動運転車両に乗車した際、車線変更禁止箇所での強引な車線変更や、車線選択の誤りなど、不安定な挙動が見受けられました。それに対し、Waymoのタクシー車両は走行可能エリア内の詳細な地図情報をシステム内に保持し、交差点や車線、周辺の建築物などの情報を適宜参照することで、安定した自動運転タクシーサービスを提供しているようです。特にサンフランシスコでは、その安定感が際立っていました。
以下ではWaymoとTeslaの乗車時に私たちが体験したことを、自動運転ソフトウェアの開発に携わるエンジニアからの視点でまとめます。
Tesla Model YのFull Self-Driving(Supervised )ver. 12.5.4に試乗しました。Supervised(監視付き)という名前の通り、高度な運転能力を備えていますが、米国自動車技術会(Society of Automotive Engineers:SAE)の定義する自動運転レベルでは、レベル2に位置づけられています。
自動運転のレベルは以下の通りです。
現状のTeslaはレベル2ですが、ほとんどの場合、複雑な道路状況に自動で対応できます。路上駐車からの発進、ナビ設定ルートの走行、目的地での停車まで、完全自動で走行が可能な場合もあります。
今回レンタルした車両は、レンタルを開始した時点では最も積極的な運転モードである「Assertive」に設定されており、少々運転が荒く、リラックスできませんでした。デフォルトの「Chill」モードに設定し、制限速度を調整したところ、安全で快適な走行になりました。この「Chill」モードでも、ラッシュ時の高速道路への合流や、必要に応じた車線変更や追い越しができます。
公道での運転性能は常に安全な印象を受けましたが、誤った運転が見受けられる場面もありました。例えば、日本ではあまり見かけない自転車レーンが自動車の右折レーンと左折レーンの間にある場所で、車両が右折するために車線変更すべき場面がありました。その際、自転車レーンを横切って右折レーンに入れる区間を逃してしまい、車両は左折レーンに入ってしまいました。実際に右折を行う前に私たちが状況を確認して運転に介入したため、交通ルールに違反することはありませんでしたが、もし介入せずにいたら左折レーンから無理やり右折したと考えられます。この現象は、Teslaの自動運転システムがカメラで認識した道路状況を正しく認識出来ていなかったことが原因だと考えられます。別の日にも同様の場面がありましたが、その時は自転車レーンを正しく処理できました。
全体を通して、自動運転の性能は洗練されている印象を受けました。複数車線の移動や高速道路での頻繁な車線変更など、人間のような運転ができていました。また、夜間でもカメラのみの認識システムは安定していていましたが、ナビゲーションの間違いやときに荒く感じる運転操作がありました。
第5世代のWaymo車両(ジャガーI-PACEベース)には、約25台のカメラと5台のLiDAR、6台のレーダー、そしてマイクやレーダーセンサーが搭載されています。
LiDAR
近距離用LiDARは、狭い道路の通行や、車両の近くにある小さな物体の検出に使用されます。上部にあるLiDARは12台の円形配置カメラの上に設置されており、認識精度と地図作成の精度を高めるセンサーフュージョンが可能になっています。
レーダー
車両の前後の4隅に黒いポッドが取り付けられており、前方は側面向き、後方は主に後ろ向きのレーダーが搭載されています。さらに、上部にあるLiDARとビジョンシステムを収納するルーフラックに、前方向きのレーダーが2台搭載されています。これらで車両の周囲を360度をカバーしています。
カメラ
各周辺のLiDARには、やや下向きのカメラと赤外線LEDが付いています。さらに、レーダーポッド(屋根の上にあるセンサー群)に6台のカメラ、様々な視野角の前方カメラ、そして上部にあるLiDARの下に円形に配置された12台のカメラがあります。
赤外線LED付きのカメラと一部の上部に設置されたカメラは、RGB+赤外線カメラか赤外線カメラのみの構成のようです。これにより、通常のRGBカメラでは見えにくい夜間でもクリアな視界を確保できます。
回転するLiDARハウジングや小さなワイパーを使用してセンサーをきれいに保つ工夫をしています。これにより、サービスステーションに戻る頻度を減らし、サンフランシスコ特有の霧などの悪天候でも運転を続けることができます。実際、ツインピークスでの濃霧の夜でも、問題なく走行できました。
Waymoの自動運転タクシーは、サンフランシスコとロサンゼルスの両地域において、様々な物体を安定して認識していました。自動車や歩行者などの交通参加者だけでなく、カラーコーンやポールなどの特殊な物体も認識していました。検出された交通参加者は点群で表示されており、動物体は底面あり、静止物体は底面なしで表示されているようです。加えて、ウィンカー、ブレーキの様子や、緊急車両の状態を表示することもあります。モニター上には物体のカテゴリが記述されていませんが、カラーコーンはオレンジ色のコーンで示されます。
車内モニターの様子
ここからは実際に遭遇した場面について紹介します。
霧がかかる夜間での認識
ツインピークスという小さな山の山頂でWaymoを呼び、乗車しました。既に日が沈み、霧がかかっており、視認性が悪い状態でした。車通りや人通りが少なく、検出すべき物体が少なかったものの、このような悪条件下でも安定した認識をしていました。また、カーブを走行中、急に目の前からスケートボードに乗った人が現れましたが、即座に認識し急ブレーキをかけ、衝突を免れる場面もありました。
緊急車両
パトカーが通りかかった際、モニター上に緊急車両を示す表示が現れました。サイレンの音で認識したのか、外観で認識したのかは定かではありませんが、一般車両とは異なる車両として認識しているようです。 また、献血車両が通りかかった時も、モニター上では緊急車両として認識されました。この車両は緊急車両ではないため、誤認識と考えられます。
その他
モニターには表示されませんでしたが、猫ほどの大きさの小さなゴミや、車体下をくぐり抜けられそうな小さな木の破片を避ける場面もありました。しかし、ウィンカー検出に関しては誤まって認識している場面が多く見受けられました。実際にはウィンカーが点灯していないにも関わらず、点灯していると認識していました。
狭路における大型トラックの回避
Waymoでの走行は非常に安定しており、複雑な交通環境におけるイレギュラーなシーンでも適切に判断していました。ここでは、複雑なシーンの一例をご紹介します。
ロサンゼルスの住宅街を走行中、前方を走行していた大型トラックがゴミ収集のために停車しました。トラックを回避するために使用する隣接車線は対向車線であり、路肩に駐車された車両によって道幅が狭くなっています。人間であっても運転が困難な状況です。
まず、このトラックを回避すべきかどうかの判断が必要です。さらに、回避するという判断を下した場合、対向車の存在に注意しながら、他の車両と接触しないように慎重に走行しなければなりません。 この時、Waymoはまずトラックの後方に減速しながら近づいていきました。
その後、トラックの回避に使用する隣接車線上に対向車の存在を検知しました。これはおそらく、Waymo車両の前方左側に搭載されたLiDARによって検知されたものと考えられます。人間の目では死角となる場所から、対向車を早期に検知し停止できることは、自動運転の大きな利点と言えるでしょう。
その後、対向車が通過するのを待ち、トラックの横をぶつかることなく通過しました。
対向車がいなくなった後にトラックを回避し通過
建物の陰からの人の飛び出しへの対応
横断歩道以外の場所で道路を横断しようとする歩行者がいた場合、その行動を予測し、停止または回避する必要があります。Waymoは歩行者の意図を正しく推定し、それに応じた運転判断を行っていました。
サンフランシスコ市内を走行中、急に建物の陰から飛び出そうとする歩行者に遭遇しました。
建物の陰から突然現れ、横断を試みる歩行者
これを回避するために、ハンドルを少し左に切りゆっくり停止しました。Waymoは急に現れた歩行者が道路を横断すると予測し、回避または停止することができるようです。 しかし、車両が近づいてくることに気づいた歩行者は、横断することをやめました。
すると、Waymoは歩行者が横断をやめたことを瞬時に認識し、再び走行を開始しました。 このことから、Waymoの行動推定の精度の高さと、それを反映した経路計画の正確性がうかがえます。
また、Waymo車両は周囲の状況をより深く理解するため、人間のオペレーターによる遠隔支援を求める場合もあるそうです。私たちが遭遇したいくつかの場面では、気づかないうちに遠隔操作による支援が行われていたかもしれません。
車内には、運転席と後部座席にそれぞれタッチパネル式モニターが搭載されており、操作が可能です。走行中の車内の音楽の変更や停止ボタンの押下、サポートへの連絡が、スマホアプリを使用しなくても行えます。モニターの上部には、目的地までの残り時間と到着予定時刻が常に表示されています。
走行予定ルートは緑色、実際に走行したルートは青色で表示されるため、視覚的に区別しやすくなっています。また、車両に搭載された25台のセンサーで認識された他の車両や歩行者が常に表示されます。信号待ちの時は赤信号のアイコンが表示され、前方の交通状況が見えなくても、渋滞なのか信号待ちで停車しているのかが分かりやすくなっています。
乗車前:
サンフランシスコでは300台近くのWaymoが走っており、自分の車両を簡易に見分けるために、アプリでパーソナライズ可能な二文字が車両の屋根にあるLEDに表示されます。
乗車中:
米国最大のラジオ局iHeartRadioと提携し、ロック、ジャズ、ディズニーヒッツなど、様々なプレイリストから音楽を選択できます。さらに、自分のスマホから音楽を再生したい場合は、お好みのアプリから音楽をキャストすることで、快適なドライブを楽しめます。
乗車後:
走行前にトランクを開けていた場合、目的地到着後に車内モニターにトランクの荷物の取り忘れを促すリマインダーが表示されるとともに、トランクが自動的に開きます。
ロサンゼルス滞在中、一度だけ自動運転車両がスタックする事態に遭遇しましたが、Waymoのサポートは迅速かつ効果的でした。
商業施設の駐車場から4車線の大通りに出ようとした際、Waymoは第2車線への進入を試みましたが、混雑のため出口で停止してしまいました。この時、第1車線は空いていたため、人間が運転していれば問題なく第1車線へ進入できたはずです。しかし、Waymoは大通りに出ることができず、後続車からのクラクションも鳴り始めたため、サポートへ連絡しました。
第2車線に進入出来ずにスタックするWaymo
Rider support機能を使うと、予想外の事態が発生した際は車内モニターのサポートボタンを押すことで、オペレーターと音声通話で会話が可能です。このサービスを利用してオペレーターに状況を伝えることで、オペレーターは遠隔から状況を把握し、車両に指示信号を送ることができます。私たちの車両は、この指示を受けて経路を変更し、ゆっくりと動き出しました。オペレーターの説明によると、これは遠隔操作ではなく、オペレーターから指示を受けた車両が自律的に経路を変更したそうです。
以上が、私たちがアメリカでTeslaとWaymoの自動運転車両を体験したまとめです。質の高い自動運転が実現されていると感じた一方で、完全な自動運転レベル5の実現には、まだまだ乗り越えるべき技術的なハードルがあり、それはWaymoとTeslaでも同様であることを再認識しました。
Koichi Imai | 今井 航一
System softwareチーム
2024年4月入社。2022年からパートタイムエンジニア、学生研究員として勤務。東京大学大学院・情報理工学系研究科修士課程を修了し、現在はミドルウェア・オペレーティングシステムの開発に携わっている。専門分野はオペレーティングシステム。
共同執筆者
過去にもティアフォーの先輩社員がアメリカで自動運転車を調査をしているので、こちらの記事もぜひご覧ください。
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