自動運転AIチャレンジは自動車技術会が主催する自動運転技術の競技会で、車両を走らせる際には、ティアフォーが開発を主導する自動運転用のオープンソースソフトウェア「Autoware」が使われています。
2019年に初めて自動運転AIチャレンジが開催されて以来、ティアフォーは競技運営を支援する立場で、ティアフォーの強みである自動運転技術の分野を中心に、シミュレーション環境やサンプル実装の提供、当日の運営のサポートなどを担当しています。
参加チーム数は、2025年の大会で約250組まで広がりました。学生や社会人、企業に所属するエンジニアまで、参加者の顔ぶれは年々多彩になっています。
今回のブログでは、技術を提供する立場から、この競技を通じて参加者がどのようなスキルを身に付けられるのか、そしてその学びが大会の発展にどうつながっているのかをお伝えします。自動車技術会は2025年3月に「SDVスキル標準」を策定し、SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型自動車)時代に求められるソフトウェア領域の技術マップとキャリア定義を体系化しました。この指標を用いることで、自動車業界が「どんな人材をどう育てるか」を共通言語で語ることができます。AIチャレンジを通じて身に付けられるスキルも、この共通言語に基づいてご紹介します。なお、2026年の自動運転AIチャレンジの参加申し込みは7月31日まで受け付けています。
2026年の大会では、性質の異なる2つの部門を設けています。
自動車・自動運転業界で実際に求められている職種と、参加者のスキルが地続きになっていることを意識し、部門が設計されています。SDVスキル標準では、SDV開発を支える人材像としてIn-Car技術者、クラウド技術者、支援技術者など31の職種が定義されていますが、そのうちの複数の職種で求められる技術を競技の中で実体験できるよう、AIチャレンジの2つの部門を設計しています。
1つ目は「Sim to Real SW部門」です。「Autoware」/ROS2をベースに、ルールベースのアルゴリズムとV2X(Vehicle to Everything:車車間・路車間通信)を組み合わせて走行性能を高める部門で、シミュレーションで作り込んだソフトウェアをそのまま実車に搭載して走らせる、いわゆる「Sim to Real」を体験できることが特徴です。
この部門で使われるソフトウェアには、「Autoware」の中で実際に使われている代表的なサンプル実装が一通り揃っています。従来の自己位置推定・予測アルゴリズムである拡張カルマンフィルター、車両の挙動を予測しながら滑らかに制御するMPC(Model Predictive Control:モデル予測制御)、自動運転向け地図フォーマットのLanelet2など、いずれも実際の自動運転で使われている要素技術です。
最初はサンプルを動かして全体像をつかみ、徐々にパラメーター調整、アルゴリズム差し替え、新規実装へと深掘りしていく流れです。要件定義からアーキテクチャ設計、テスト、センサーや制御パラメーターのチューニングまで、一連のソフトウェア開発工程を競技の中で経験できます。
さらに、V2X環境を扱える点も、この部門ならではの特色です。クラウドを介して他車両の情報を受け取り、自車の判断にどう活かすかなど、協調型自動運転を考えるうえで業界が今まさに向き合っているテーマに触れられます。
SDVスキル標準の技術マップに照らすと、ミドルウェアやソフトウェアアーキテクチャといった「ソフトウェア共通」領域から、車両制御、センサー処理、V2Xといった「自動車共通」「機能/サービス固有」領域まで、参加者はSDV開発の中核を縦断するスキルを身に付けることができます。
とりわけV2Xは車両単体の制御に閉じない協調制御や通信規格への理解にまで踏み込む領域で、この環境を扱えることはIn-Car技術者の素養とクラウド技術者の素養が交差する稀少な実践機会と言えます。
2025年度からは、SDVスキル標準を参考にし、参加者がこれらのスキルを獲得した状況を評価する取り組みも始めています。
もう1つは「End-to-End AI部門」です。カメラと2D LiDARで収集したデータを基に、機械学習モデルが直接ハンドル、アクセル、ブレーキの制御を出力するE2Eアプローチにゼロから挑む部門です。サンプル実装を参考に、データの設計段階から自分たちで組み立てていく構成になっています。
この部門でも、ゼロから着手しやすい代表的なサンプルが提供されています。画像から直接操舵量を出力するCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)であるPilotNet、2D LiDARの点群から直接操舵を出力する軽量モデルのTinyLidarNetなど、機械学習の入り口としても扱いやすい技術です。
まずは手元で車両を走らせて感触をつかみ、上位を目指す段階では独自モデルへの置き換えやデータ収集の作り込みに挑戦できます。データの収集計画、アノテーション設計、モデル設計、学習、評価、テストという、データ起点のエンジニアリングをフルサイクルで経験できる構成になっています。
特に、運行設計領域(Operational Design Domain:ODD)を意識したデータの収集計画から始めるところが特徴で、議論で終わらせず、カメラとLiDARを搭載した実車で検証まで進められることに、この競技ならではの価値があります。ここで身に付けられるスキルは機械学習やデータエンジニアリングの色合いが濃く、SDVスキル標準上では、AIやデータサイエンスの基礎技術から、認識・判断モデル開発という「機能/サービス固有」領域までを縦断します。データ起点でクラウド技術者やドメインスペシャリストとしての素養を身につけられる場として位置づけられています。
参加者向けに行う説明会では、各分野のフロントランナーの方々にGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム) 、AI、V2X、実車走行といった技術領域についてご講演いただきます。6月12日に開催されたプレセッションおよび交流会には、GMO Various Robotics、SUBARU、産業技術総合研究所、東京大学 塚田研究室、ニコン・トリンブル、TIER IVの各社・各機関が登壇しました。競技を進めながら関連分野の最先端に触れられることは、参加者の学習効果を大きく後押ししてくれると思っています。
ここからは、技術を提供する立場から見た大会の発展についてお話しします。
私たちは、AIチャレンジが回り続けるための仕組みを、3つのサイクルが噛み合う「フライホイール」として整理しています。
チーム結成から始まり、競技での実践、参加者全体の技術力向上、そして「Autoware」やAIチャレンジのようなオープンソースソフトウェアへのコミュニティ還元へとつながっていきます。優れたコードや知見がオープンソースソフトウェアに貢献されることで、「Autoware」が進化し、ひいては業界全体に還元されていく流れです。
協賛社や協力者の増加がAIや協調領域などの新規機能開発を支え、競技結果の採点環境の継続的な改善や運営体制の成熟を生み、さらなる協賛社や協力者の増加へと循環します。
説明会や表彰式といったイベント交流やSNSでの発信を通じて認知を拡大し、ファンを獲得することで参加者数が増え、次のイベント交流へとつながります。
この3つは独立したサイクルではなく、すべて「大会のブランド価値向上」という点に集約されます。学びが還流して技術が進み、技術が進むからプラットフォームが磨かれ、プラットフォームが磨かれるからコミュニティが広がる。大会全体として目指しているのは、この相互循環が回り続ける構造です。
サイクルの一つひとつは、特定の誰かが回せるものではありません。参加者、協賛社、後援団体、研究機関、ボランティアスタッフ——たくさんの方々の関わりがそろって、はじめて加速度的に回り始めます。だからこそ、大切にしているのは、関わってくださる方それぞれにとって意味のある場にすることです。
参加者には「自分の技術が業界に届く」という実感を、協賛社には「採用と技術を訴求できる場」を、研究機関には「実機データで仮説を検証できる場」を提供できるよう、競技ルールや大会に関わるコンテンツも作り込んでいます。
AIチャレンジは、競技イベントであると同時に、自動運転技術者を発掘・育成し、業界に還元するためのフライホイールでもあります。自動車業界が共通言語として整備を進めているSDVスキル標準とも歩調を合わせ、業界の人材育成インフラの1つとして機能する場にしていきたいと考えています。参加者の方々にとっては技術力を試す場であり、企業の方々にとっては未来の技術者と出会う場、業界全体にとっては次の10年を支える人材プールを育てる場でありたいと考えています。
参加登録期限:7月31日
予選期間:7月1日〜9月1日
シミュレーション決勝:9月19日
実車両決勝:9月20日
Official website: www.jsae.or.jp/jaaic/index/
田中 大貴 | Autoware Scaling 事業推進部
東京大学大学院学際情報学府にて修士号を取得後、2019年に日産自動車でAD/ADAS開発に従事。2020年からティアフォーで都市部の自動運転システムの実装・検証や、ラストマイル配送など複数プロジェクトを技術リードとして統括し、現在はプロジェクトマネージャーとして自動運転AIチャレンジの運営や講座制作などを担当しています。
ティアフォーでは、「自動運転の民主化」というビジョンに共感を持ち、自らそれを実現する意欲に満ち溢れた新しい仲間を募集しています。
今回のチームで募集中の職種
その他にも多くの職種で採用をしています。詳細は、ティアフォーの「求人ページ」をご覧ください。
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