こんにちは。ティアフォー事業本部Public Policy & Strategy Teamの西川です。ティアフォーでは、技術開発はもちろん、公共政策にも力を入れています。今回は公共政策という切り口から見た自動運転について発信したいと思います。(なお、このブログは、ティアフォーでの日々の活動や政府の動向を踏まえて執筆していますが、意見・解釈については、個人の見解に基づいています。)

さて、ティアフォーのこのブログにたどり着いた方は少しは自動運転にご興味がある方かと思いますので、既にニュース等でご覧になったかも知れませんが、今年4月19日に、運転者の存在を前提としない自動運転レベル4 *1 対応の道路交通法改正法案が国会で成立したことが報じられています。
こうした法律を制定し、ルールを作るのは政府の代表的な役割の一つです。しかし、そのルールは、当然ながら、政府が一方的に制定しているものではなく、業界・関係者との綿密な議論や利害調整を経て策定されています。
今回はこうした政府と自動運転の業界・関係者(ステークホルダー)との議論の場について、現在実際に動いているプロジェクトを例に、ご紹介していきたいと思います。
自動運転における公共政策の意義
まず、最初に、そもそも自動運転という最先端のテクノロジーと公共政策がどのように関わっているのかを見ていきます。
自動運転は、交通の担い手不足や交通事故の減少などの様々な社会課題の解決に資する技術で、実現すれば世の中に非常に大きなインパクトを与えると考えられます。社会実装を目指す上では当然ながら、安全性や快適性を確保できるよう、技術を磨いていくことが何より重要です。
ただし、素晴らしい技術をもって、いいものを作りさえすれば自然と実装されるかと言うと、必ずしもそうではありません。
確かに誰しもが便利で世の中のためになるものを使いたいわけですが、その「便利」や「世の中のためになる」をどう考えるかは人それぞれであり、ある人にとってはいいものであっても、別の人にとっては迷惑なものかも知れず、作り手が「いいもの」と思っているだけでは意味がないわけです。
そうした利害の調整を行いながら、健全な市場が成立し、社会の全体最適が実現するように環境整備するのが「公共」の重要な役割と言えます。
環境整備とは、すなわち、新しい技術が世の中に受け入れられるために、
- 様々なステークホルダーを巻き込み、協調領域について整理する議論の場を設ける
- 特に黎明期における使われ方やメリット・デメリットを整理して世の中に提示し、実装に向けた機運の醸成を図る
- ルールを制定したり、改変する
- 補助金を支出したり、税の減免を行う
といったことを通じて、公正で自律的な市場の形成の後押し等をすることです。
政府が作ったルールで縛られるのはむしろデメリットだという考え方もあり得ます。確かに、仮に技術や市場の実態に即していないルールが策定されれば、それは技術の進展や市場の成長を阻害するものになりかねません。
ただ、一般的には、政府主導で上記のように様々なステークホルダーを巻き込んで議論を行った上で、適正な競争環境を整えたり、安全性を確保したりと、健全な市場を形成するためのルールの策定が図られます。そして、こうしたルールがなければ、粗悪な事業者が跋扈して、結局技術や業界自体が世の中に受け入れられない、ということにもなりかねません。
「ルールがある」ということはその事業が「合法である」ということでもあります。例えば、「住宅宿泊事業法」ができるまで、民泊は(直ちに違法ではないものの)グレーな業態でしたが、法律ができることで間違いなく「合法」になり、社会に十分受け入れられるようになりました。
こうした環境整備が、特に新しい技術やサービスを展開する上ではとても大事になってきます。
自動運転分野における政府による環境整備
では、自動運転について、政府はどのように環境整備をしているのでしょうか。
さきほど、利害調整という話をしましたが、自動車や交通の世界は、既に古くからかなりルールが確立しており、既存のルールや考え方との整合が大事になってきます。また、安全性を確保しながら、世の中に受け入れられるようにしていかないといけません。
こうした内容について一定の方向性を作っていくためには、各ステークホルダーの「納得感」が重要であり、それぞれ立場や利害が異なる関係者を集めて、こうした議論をする場を国が用意してくれています。そして、これは中立的な立場である国だからこそできることです。
こうした議論の場のうち、ティアフォーが参画しているもの(構成員・オブザーバー等ではないが、トピックによりヒアリングを受けているものも含む。)をいくつか紹介すると、
- 自動走行ビジネス検討会【経済産業省・国土交通省】
- 自動運転の実現に向けた調査検討委員会【警察庁】
- 戦略的イノベーション創造プログラム 自動運転(SIP-adus)【内閣府等】
- 空港制限区域内における自動走行の実現に向けた検討委員会【国土交通省】
- 自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会【経済産業省】
などがあります。
会議体が色々とあって一見ややこしいですが、最近は省庁横断的な取組も増えています。一方で、自動運転のようにまだルールやビジネスモデルなどが確立されていない分野では、むしろ多角的に色んな場で議論することも重要だと考えられます。ただ、そうした議論が単にバラバラで行われるのではなく、相互に矛盾なく、かつ、シナジーを生む形で共有されていくことは必要だと思われます。
自動運転に関する政府の目標
では、政府としては自動運転についてどのような目標を持ってこうした会議を開催しているのでしょうか。
まず、自動運転に限らず、政府としての大きな目標は毎年政府が決定する成長戦略などで取りまとめられています。
成長戦略はときの内閣によって名称が変わることもありますが、最新のものは「成長戦略フォローアップ(令和3年6月18日閣議決定)」というもので、その中では、自動運転の目標について、例えば以下が記載されています(他にもたくさんあります)。
- 2022年度目途に限定地域で、遠隔監視者1人での3台以上の車両の同時走行 を可能とするため、引き続き技術開発・実証を行うとともに、 遠隔監視者の関与の在り方等について結論を得て、2022年度のできるだけ早期に必要な制度整備を行う。
- 公道での地域限定型の無人自動運転移動サービスについて、2021年度中に実証に資するガイドラインを策定し、2025年を目途に40か所以上の地域で、2030年までに全国100か所以上で実現 する。
(出所)内閣官房「成長戦略フォローアップ」より
そして、経済産業省・国土交通省がこうした目標の達成に向けて議論を進めている会議体の一つが、「RoAD to the L4」というプロジェクトです。
これは、上記の「自動走行ビジネス検討会」に紐づく、自動運転の社会実装に向けたプロジェクトです。

(出所)経済産業省「RoAD to the L4」シンポジウム資料より
RoAD to the L4は、正式名称を「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト」といい、その名のとおり、自動運転の社会実装を目指して官民の様々な関係者を巻き込んだ国家プロジェクトです。
今回は、主にティアフォーも参画している「自動運転テーマ2」について見ていきたいと思います。
RoAD to the L4 自動運転テーマ2
上の図にあるように、RoAD to the L4には、「自動運転テーマ1」から「自動運転テーマ4」という四つのテーマのプロジェクトがありますが、それぞれ、
- テーマ1:「2022年度に限定エリア・車両での遠隔監視のみ(レベル4)で自動運転サービスの実現」
- テーマ2:「さらに、対象エリア、車両を拡大するとともに、事業性を向上する」
- テーマ3:「高速道路における隊列走行を含む高性能トラックの実用化」
- テーマ4:「混在空間でレベル4を展開するためのインフラ協調や車車間・歩車間の連携など」
となっています。
すなわち、テーマ1が最も基本的な走行環境でレベル4の実現を2022年度内に目指すものであり、これを様々なエリアや車両に展開していくのがテーマ2となっています。テーマ3は高速道路における隊列走行等という特定のユースケースにフォーカスし、テーマ4はインフラ・他の交通参加者とのコミュニケーションを通じて、混在空間という非常に難しい環境でのレベル4を実現する取り組みとなります。テーマ1の発展・横展開として、特にテーマ2とテーマ4は連携して実施されています。

(出所)経済産業省・国土交通省「自動走行ビジネス検討会報告書Ver 6.0」より(赤字の「テーマ1」~「テーマ4」は筆者加筆)
今回は、このうち、上述の成長戦略にあった「公道での地域限定型の無人自動運転移動サービスについて・・・2025年を目途に40か所以上の地域で、2030年までに全国100か所以上で実現する」ことを目指すテーマ2について、政府の公表資料を元に説明します。

(出所)経済産業省「RoAD to the L4」シンポジウム資料より
テーマ2においては、関係省庁、関係機関、車両OEMからベンチャーまで広く関係者が一堂に会し、①自動運転システムにおける役割区分、②安全性の確保、③市場性の確保の3つの切り口で、「モデル地域での検討」と「多様化を目指したタスクフォースでの検討」を通じてテーマ1で実装される自動運転の基本系を、様々な走行環境や車両タイプに展開(多様化)すべく、検討を重ねることとなっています。

(出所)経済産業省「RoAD to the L4」シンポジウム資料より
ティアフォーはこのうちタスクフォース(座長:東京大学 加藤准教授)に「自動運行装置等開発事業者」として参画しており、政府目標の達成に向けて関係者との議論を行っています。
テーマ2の資料そのもので公表されているものは多くありませんが、2022年4月28日に公表された自動走行ビジネス検討会報告書Ver6.0において、2021年度の取組内容が報告されています。

(出所)経済産業省・国土交通省「自動走行ビジネス検討会報告書Ver 6.0」より
タスクフォースでは「サービス類型と走行環境条件を加味したODD *2 類型化案を踏まえ、安全走行やODD設定の考え方の基本的な考え方について整合を図(る)」とされています。
現時点では、上記資料にあるように、ODD類型は「仮決め」の状態ですが、2022年度における様々な検討を経て見直すこととされています。その上で、「車両・遠隔(監視)・インフラ」の役割分担に関する議論も踏まえつつ、2022年度中にODD類型に基づく各種指針=「サービス社会実装ガイドライン」「SA*3 ガイドライン」のとりまとめや、制度整備に向けた関係省庁への提言などをアウトプットとすることとしています。
ODDを類型化する狙いは、ある場所で自動運転サービスを導入しようとした場合に検討しなければならない事項をゼロベースで考えるのではなく、そのODD類型であれば凡そ検討すべきと考えられる共通的事項を上記ガイドライン等にて参照することにより、様々なプレーヤーが様々な車両・場所で効率的に開発・導入を進められることにあります。
とりわけ、安全性をどう確保し、どう評価するか、そもそもどれくらい安全であれば十分安全と言えるのか(How safe is safe enough?)という命題は自動運転の大きな課題の一つであり、「SAガイドライン」については、安全性評価に関するガイドラインとして、これらの点を考える上で大きな期待が寄せられるところです。
RoAD to the L4 テーマ2の意義と政府の役割
現状、自動運転業界は、タスクフォースに参画しているようなトップランナーが試行錯誤や関係省庁との折衝を重ねながら社会実装に向けて進めているところですが、市場の裾野を広げていくためには、これらトップランナーの知見等を、上記のようなガイドライン等を通じて、可能な限り様々なプレーヤーが参照して市場に参入できるようにすることが大事です。これは一見、既存プレーヤーにとっては参入障壁を下げてしまうことになりインセンティブがないようにも思えますが、実際は逆です。
既存プレーヤーとしても、自動運転の世界では整理しなければならない事項は多く、数社だけではそれらを検討するための事例が十分に集まりません。また、自社の意見はしっかりと述べた上で、ルールが整備され、新規参入等により市場が活性化すれば、パイの拡大、自動運転に合わせたインフラの整備や世の中による受け入れ(社会的受容性)も進み、結果、既存プレーヤーにとっても十分なメリットをもたらすと考えられます。
競合同士が単に競争するだけではなく、ある目標・方向性に向かって必要な範囲では手を取り合って、自動運転という新たな市場を作っていく。そういう議論の土台を作るのが、政府が果たす重要な役割の一つだと考えています。
最後に
さて、今回は政府の取り組みのうち、主にRoAD to the L4のテーマ2について見てきました。
ティアフォーでは、「自動運転の民主化」の理念のもと、こうした政府の会議体にも積極的に参加するなどルールメイキングに貢献し、オープンで健全な市場を作って行きたいと考えています。
今後も、自動運転をめぐる政府の動向や、ティアフォーの公共政策に関する取り組み状況について随時発信することを通じて、読者の皆様にティアフォーの公共政策に対するスタンスを理解して頂くとともに、社会的受容性の向上に貢献して行きたいと思います。
*1 自動運転車の呼称・レベル等:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377364.pdf
*2 ODD:Operational Design Domain(運行設計領域)。自動運転の走行環境条件
*3 セーフティアセスメント
Iwakazu Nishikawa | 西川 岩和
Public Policy & Strategy Team, General Manager
2011年、国土交通省入省。空港民営化、建設企業向け金融支援、インバウンド(観光庁)、不動産証券化等に関する政策の企画・立案に従事。人・モノの移動をより自由にすべく、2020年よりTIER IV(事業本部)に入社。Public Policy & Strategy Teamで、政府との対話を通じたルールメイキング、各種国プロの実証実験責任者等を担当。英国ロンドン・ビジネススクール金融学修士コース(MiF)修了。
オープンソースのソフトウェアを一緒に開発していきませんか?
ティアフォーでは、「自動運転の民主化」というビジョンに共感を持ち、自らそれを実現する意欲に満ち溢れた新しい仲間を募集しています。
Media Contact
pr@tier4.jp
Share the post
LinkedIn | Twitter | Facebook | Instagram