
自動運転用オープンソースソフトウェア(Open Source Software:OSS)「Autoware」は2025年8月に10周年を迎えました。10年という大きな節目を経て、更なる進化に期待が寄せられています。
今回の「TIER IV People」では、ティアフォーにてマイクロオートノミー本部長を務める近藤豊にオープンソース自動運転プロジェクトとしてのAutowareの過去・現在・未来についてインタビューを行いました。
これまでにティアフォーが主導してきたAutowareの改善や、現在取り組んでいる課題、そしてAutowareをあらゆる自動運転技術の標準として確立するために何が必要かについて語ります。
——Autowareに関わるようになったきっかけを教えてください
学生時代からロボットが好きで、大学院では人型ロボットの動作生成やヒューマンロボットインタラクションの研究をしていました。卒業後、様々なロボットのソフトウェア開発に携わる中で、活動領域がモビリティやナビゲーションの分野へと自然に広がり、その流れで自動運転にも関心を持つようになりました。
前職では、家庭用ロボットの開発に従事していましたが、システムエンジニアリングだけでなく、事業開発、広報、マーケティング、営業といった幅広い業務に携わりました。ティアフォーがミドルウェアとしてROSを使用していたので、私のバックグラウンドとの親和性が高いと感じたことから、ティアフォーに興味を持ちました。
ティアフォー入社後、CTOからAutowareの品質向上に取り組んでほしいと依頼を受けました。当時、開発チームが個別機能の開発に注力する一方で、アーキテクチャ全体を見据え、製品としての信頼性を高めることに特化したチームは存在しませんでした。私が担うことになったのは、まさにこのシステム全体の品質向上を推進する役割でした。
ソースコード本体に手を加える前に、まずCI/CDパイプライン、つまり裏側で動く開発の仕組みの強化に取り組みました。コードの改善プロセスを加速させ、かつ確実にテストが実行されるための自動化基盤を確立した上で、Autoware本体の改良に着手しました。
現在、私が本部長を務めるマイクロオートノミー本部では、自動運転ソフトウェアに留まらず、関連するハードウェア、システムソフトウェア、OS、さらにはAIアクセラレーターに至るまで、幅広い研究開発を推進しています。
私たちの目標は、Autowareのリリースサイクルを安定させ、製品へ直接組み込み可能なレベルにまで高めることです。また、自動運転OSの業界標準を目指す国際業界団体「The Autoware Foundation(AWF)」と連携し、グローバルでのAutowareの普及に向けた活動にも積極的に取り組んでいます。国際開発者会議であるAutowareConの開催や、ROSビルドファームを通じたAutoware Coreのリリースなどは、その活動の一環です。
ℹ️ Autowareには、主に「Autoware Core」と「Autoware Universe」という2つのディストリビューションがあります。Coreは安定稼働を重視したプロダクション向けの構成で、Universeはコミュニティ主導で開発されるより幅広い機能を含んでいます。
AutowareCon 2025にて(前列一番左が近藤)
——50名のエンジニアを統括する上で課題はありますか
私が常に念頭に置いているのは、Intelの元CEOであるアンドリュー・グローブ氏の著書「High Output Management」から学んだ考え方で、「マネージャーのアウトプットは、自分の組織のアウトプットと、自分の組織に関連する組織のアウトプットである」という原則です。私の役割は、エンジニアたちが正しい優先順位で業務に集中できるようサポートし、発生した問題を孤立させることなく、組織間の協力を促進しながら解決できる環境を構築することにあります。
これまでは、CTOの配下にはAutowareエンジニアリング、AIアクセラレーター、エンドツーエンドAI技術、シミュレーション、システムソフトウェアの5部門があり、それぞれ独立して機能する傾向にありました。各部門は個別には高い成果を発揮していましたが、組織間の連携が不足しているという課題を抱えていました。
現在、これらの部門を一つのプラットフォーム部門として再編成しています。これにより、システム全体を視野に入れた意思決定の実現を目指しています。この変革の実現にあたっては、「フライホイール」の考え方を参考にしています。これは、システム内の各要素が次の要素を補強し合うことで、進捗が加速度的に向上するという考え方です。目標を一致させ、チーム間の連携を強化することで、部門全体にこのような循環を生み出すことを目指しています。
——AutowareをROSビルドファーム経由でリリースするようになった経緯や、その際に直面した課題を教えてください
これまで、Autowareはソースコードとビルド方法を公開していましたが、その開発には高いスキルが求められるため、ユーザー数の増加には限界がありました。
ROSビルドファーム経由でAutoware Coreをリリースしたことで、適切なパッケージングが可能となり、Ubuntuのパッケージ管理システムへの依存が実現しました。その結果、すべてを自動でダウンロード・インストールするセットアップスクリプトを提供できるようになり、ユーザーの導入コストは劇的に低減しました。
一方で、この移行によりインターフェースの安定化という新たな課題が生まれました。以前はAutowareのインターフェースが頻繁に変更されていたため、ユーザーはその都度、コードの修正を強いられていました。ビルドファーム経由でリリースするということは、Autowareへの依存ユーザーが大幅に増えることを意味していたため、私たちは後方互換性を確保し、ユーザーのシステムが予期せず動作不能に陥る事態を防ぐ必要がありました。
この課題に対処するため、私たちはセマンティック・バージョニングを採用しました。ユーザーからは目に見える大きな変更がない場合でも、内部ではシステムを継続的に修正しています。このバージョニングとメンテナンスプロセスを適切に管理することには多大な労力を投じる必要がありましたが、その結果、Autowareを安定してリリースできるようになりました。
また、以前はAutoware Universeの全ソースコードをビルドするために、大容量のメモリとCPUリソースを持つハイエンドな環境が必要でした。しかし、現在ではユーザーが事前にビルドされたコンテナイメージをインストールするだけでよくなったため、ハードウェアの要件は大幅に緩和されました。これはユーザーにとって極めて大きなメリットです。インストールとセットアップのプロセスも非常に簡素化された結果、中高校生といった若年層にも利用可能となり、すでに多くのユーザーに活用され始めています。
——無事リリースされた今、他に課題はありますか?
現在、ドキュメンテーションやチュートリアルの内容はまだ十分に充実しているとは言えず、改善が必要です。「インストールは可能でも、その後のセットアップでつまずく」というユーザーの声も存在するため、早急な改善を計画しています。
もう一点の課題は、Autoware CoreとAutoware Universeが独立した形で提供されている点です。現状リリースされているのはAutoware Coreのみであり、提供される機能は限定的になっています。今後は、Autoware Universeから選定した機能群をAutoware Coreへ段階的に統合・追加し、Autowareの核となる部分を継続的に成長させていく必要があります。
ティアフォーのミッションは「自動運転の民主化」であり、その実現には開発者の増加に留まらず、ユーザー層の飛躍的な拡大が不可欠です。その観点から、今回のROSビルドファーム経由でのリリースは、このミッション達成に大きく貢献すると思います。
現在、AutowareのGitHubリポジトリはスター数が10,000を超え、高い認知度を獲得しています。しかし、これを50,000、あるいは100,000にまで引き上げるには、日本国内に留まらずグローバル市場を見据えた展開が求められます。
グローバルの展開にあたり、国内で行っているワークショップを開くといった個別のサポート提供は難しくなっていくでしょう。だからこそ、ドキュメント、チュートリアル、そしてAutowareを使って移動ロボットや実車両を動作させた事例などの公開が重要になります。これらのリソースをオープンに共有することが、コミュニティを飛躍的に成長させる鍵となります。
——世界中でAutowareへの注目が高まっていますが、どのように海外展開をサポートしていきますか?
自動運転に対する需要は世界的に高まっていますが、高額な商用ソリューションを導入できる国は限られています。Autowareはオープンソースとして提供されているため、リソースが限られた地域でも利用可能です。その結果、アフリカや南米などの一部地域でも利用されており、先進国に留まらず世界中の幅広い地域で活用されています。
ティアフォーに関しては、日本の市場、特に公共交通機関、物流、そして産業用アプリケーションに深く関わっています。一方、AWFは、国際的なエコシステムを構築することで、海外のユーザーをサポートしています。特にヨーロッパでは、ビジネスパートナー、地方自治体、および研究機関と緊密に連携し、Autowareの利用範囲を拡大しています。
今年の9月に開催されたAutowareConでは、世界中から集まった参加者がプレゼンテーションを行い、活発な情報交換と交流が行われました。森林を走行する自動運転車、建設現場で稼働する車両、空港内で運用されているバスなど、多岐にわたる事例が紹介され、Autowareが持つ可能性と、オープンソースが持つ真の力を実感することができました。
——近い将来Autowareが実社会で活用されるのはどのような分野ですか?
ほとんどの自動運転企業が個人所有の乗用車に注力する中、ティアフォーがターゲットとしているのは公共交通機関です。
これは、人口の高齢化やバスなどの大型免許保有者数の減少により、過疎地域での交通サービスの削減が進むなか、地域交通の需要が高まっているという社会背景があるためです。この分野は、地方自治体や公共機関との緊密な連携が不可欠なため、参入障壁が高く、競合企業は多くありません。ティアフォーは既に自治体との強固な関係性を構築しており、その戦略は具体的な成果を上げています。
公共交通の分野では、より柔軟なアプローチを取ることも可能です。例えば、高度なセンサーの採用、特定の車線における自動運転車両専用化、カメラ検出だけでなく交通信号との直接連携、さらには道路脇の植生などの環境要因の管理といった対応が挙げられます。これらは、この領域特有の優位性です。
もしティアフォーが、自動運転による公共交通のデファクトスタンダードとしてAutowareを確立できれば、極めて強固な地位を築くことができると確信しています。
——この先の未来のAutowareの展望を教えてください
従来、Autowareは、ノイズを考慮しながら動きを推定する確率ロボティクスとルールベースのロジックに依存してきました。この手法は初期段階では有効であったものの、ルールが蓄積するにつれて相互に競合し始め、結果として自動運転の性能限界を生み出す要因となっていました。
この課題を解決するためには、自動運転車両の振る舞いを人間ドライバーの挙動に近似させる必要があります。
現在の技術トレンドは、学習モデルへの移行にあります。これは、大量の画像データと、それに対応する人間のハンドル操作、加速、ブレーキ操作のデータが入力された大規模ニューラルネットワークを用いるアプローチです。数万、あるいは数百万もの事例を使ってモデルを学習させることで、人間の行動を高い精度で再現できるようになります。
このパラダイムはここ数年で急速に進化・加速しており、多くの主要企業が既にこの分野に取り組んでいます。Autowareもこの流れに追い風を受けており、現在、私たちは学習モデルにおける最先端の技術領域に注力しています。
同時に、学習ベースのシステムには安全性における課題が残されています。それは、システムがなぜその決定を下したのかを常に説明できるわけではないという点です。そこで、Autowareが持つ従来のルールベースのフレームワークが不可欠となります。走行中、人や障害物が出現した際に車両を確実に停止させるなど、既に確立されている仕組みを活用することで、その部分を補完することが可能です。
今後10年間の課題は、アルゴリズムでの対応が難しい環境での性能向上です。例えば、地方の未整備な道路、予測不能な状況、そして複雑な工事現場などです。これらには、データセット駆動型のアプローチが不可欠となります。
——オープンソース開発における最大の課題は何ですか?また、国外の開発者コミュニティとはどのように連携していますか?
現在、私たちが取り組んでいる最優先の課題は、開発プロセスの入口となるプルリクエスト(PR)のテストとレビューの強化です。このプロセスはまだ改善の余地が大きいため、シミュレーションによる評価システムの強化と、レビューが活発に行われる体制を作りを行っています。
この課題の解決は、健全な開発サイクルを構築するために不可欠です。私たちが目指すのは、「開発者によるコントリビューション(貢献)がAutowareの改善につながり、その改善されたAutowareがユーザーを増やし、さらにそのユーザーが新たなコントリビューターとなる」という好循環です。来年一年間をかけて、この開発ループ全体を体系的に強化したいと考えています。
連携強化の具体的な施策として、コントリビューションを促すバウンティハンター制度(報奨金制度)を採用するのも面白いと思っています。
これは、GitHub上で課題を公開し、それを解決したコントリビューターに報奨金を支払うというものです。この制度は、社内エンジニアに対してAutoware拡充を目的とした活動とキャリア伸長の機会を同時に提供するだけでなく、世界中の開発者からの協力を募る有効な手段となり得る極めてオープンでダイナミックなアプローチです。
AutowareConにも大きな期待を寄せています。世界中の開発者、ティアフォーのエンジニア、そしてAWFがより緊密に協力し、活発な議論ができる場へと拡大できればと考えています。それにより、ティアフォー単独では到達し得ない新たな視点や斬新なアイデアが創出され、プロジェクトの飛躍的な発展につながることを期待しています。
——AutowareはLinuxと比較されることも多いと思いますが、エコシステムの拡大戦略について教えてください
Linuxが成功を収めた要因は、カーネルの強力さだけではなく、多くのサードパーティ開発者があらゆる種類のデバイスに対応するドライバーを構築した点にあります。この多様性こそが、Linuxを普遍的な存在にしたのです。
Autowareも同様で、多様なセンサー、コンピューティングプラットフォーム、および車両タイプをサポートするためには、コミュニティからの多くのコントリビューションが不可欠です。そうでなければ、特定のハードウェアや特定の車両に強く依存したシステムになってしまいます。
現在、Linuxのレベルには程遠い状況ですが、今後1~2年でその水準に近づきたいと考えています。ROSビルドファーム経由のリリースは、そのための最初の大きな一歩ではありましたが、長期的な登山に例えるならば、まだ一合目に過ぎません。この「山」を登りきる鍵となるのは、外部の開発者が積極的に参加し、協働できるような健全なエコシステムを構築することだと考えています。
サードパーティの貢献者に対するインセンティブは、Linuxと同様に重要です。Linuxにコントリビューションした経験が、開発者にとって技術力の高さを示す証明になるのと同様に、Autowareへのコントリビューションもその地位を確立しつつあります。自動運転はまだ新しい分野であるため、純粋にコーディングを楽しむことを目的にコントリビューションを行う開発者も存在します。
とはいえ、現在のビルド、実行、およびシミュレーションシステムは依然として複雑であり、これらをより簡単かつ柔軟にすることが、取り組むべき喫緊の課題と言えます。
——Autowareが目指す、長期的なビジョンは?
現時点ではAutowareは「自動車のためのソフトウェア」というイメージが強いかもしれません。しかし、自動運転技術は移動するものすべてに不可欠な技術です。Autowareが自動車で高い信頼性をもって動作するようになれば、その適用範囲は、小型ロボット、航空機、惑星探査機、深海探査機など、あらゆるモビリティへと拡張可能です。
もしAutowareが自律移動(Autonomous Mobility)の標準となることができれば、そのプラットフォームは飛躍的に拡大し、結果としてエコシステムがさらなる発展を遂げると確信しています。
Autowareはオープンソースであるため、大規模な資金力を必要とせず、誰でも利用可能です。これは、自動運転をすべての人に身近なものにするという私たちのビジョンを反映しています。
その意義は、Raspberry Piが安価にコンピューティングに触れる機会を提供し、技術へのアクセスを可能にした事例と同様です。
例えばAutowareを搭載したマウス型の自律移動ロボットのような低価格なホビーキットが作られ、そのキットがコンテストや教育プラットフォームで活用されるのも良いですね。エンジニアを目指す若い世代が自動運転技術を学ぶきっかけとなったら最高です。
そしてその先に、まず自動車があり、さらにその先には、航空、海洋、宇宙を含む広範なモビリティサービスへと広がっていくことになります。この広がりが、エコシステムの飛躍的な拡大に直結すると確信しています。このような可能性こそが、オープンソースソフトウェアの最大の強みであると言えます。
近藤豊 | マイクロオートノミー本部
マイクロオートノミー本部長兼プリンシパルとして、Autowareおよび関連技術の研究開発を主導。担当領域は、エンドツーエンドAI、ミドルウェア、オペレーティングシステム、シミュレーション、そしてAIアクセラレータなど多岐に渡る。博士(工学)。ティアフォー入社以前は、産業用ロボットメーカー、AIスタートアップ、家庭用ロボット企業で自律移動ロボットの開発に従事。ROSConプログラム委員とROSCon JP実行委員を務める。著書に『改訂新版 ROS 2ではじめよう 次世代ロボットプログラミング』がある。
ティアフォーでは、「自動運転の民主化」というビジョンに共感を持ち、自らそれを実現する意欲に満ち溢れた新しい仲間を募集しています。
今回のチームで募集中の職種
- シニア機械学習エンジニア(自動運転E2Eモデル)
- 自動運転センシングチーム マネージャー
- パーセプションチーム マネージャー
- R&D戦略推進マネージャー
- シニアソリューションリード(自動運転・AI・ロボット技術推進)
- 2027卒新卒 エンジニア職
その他にも多くの職種で採用をしています。詳細は、ティアフォーの「求人ページ」をご覧ください。カジュアル面談をご希望の方は、応募する際に「カジュアル面談希望」と記載してください。
「どの職種で自分の経験を活かせるかが分からない」「希望する職種が見つからない」などの場合は、ぜひ「キャリア登録」をお願いします。
お問い合わせ先
- メディア取材やイベント登壇のご依頼:pr@tier4.jp
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