前回は、ティアフォーのシミュレーションに対する取り組みを紹介し、自動運転の検証には実際の道路での走行試験と、仮想空間でのシミュレーションテストの両方が重要であることを説明しました。今回は、自動運転の安全確保が従来の車と同じ方法では困難であることを、ティアフォーの公道走行試験で起きた実際の事例を使って紹介します。
公道試験、ティアフォーの事例
以下の図はティアフォーが日本の一般道で実施した公道試験時の状況を「Autoware」の内部データを基に再現したもので、自動運転車両が下側から交差点に進入し右折しようとしている場面を表しています。

中央の青い車両が右折をしようとしている
これは、画面下の自動運転車が交差点で右折しようとして対向車の通過を待つ場面ですが、その時先頭の対向車が減速し、自動運転車に進路を譲りました。通常であれば、自動運転車は対向車が十分に速度を落とした場合、右折しても安全であると判断し、交差点に進入します。ところがこの時、対向車の2台後ろの後続車両が遠方からかなり速い速度で接近してきていたため、自動運転車両はこの後続車が交差点に侵入してくるリスクがあると判断し、発進ししませんでした。その結果、交差点の中で双方がお見合い状態となり、止まってしまうという事象が起こりました。人間のドライバーであれば、このようなケースで後続車が先頭車両を追い越して進入してくる事はあり得ないと判断し、発進する事ができますが、「Autoware」にとってはこのような判断は想定外でした。
今回の事例に対応するためには、対向車線が複数レーンあったり、後続車両が二輪車の可能性がある場合も考慮する必要があります。さらには対向車が進路を譲ってくれた場合でも、交差点に右折進入すると交通違反となるリスクもあり、これらのケースも含めて全ての再検討が必須になります。そして、その結果を受け、再びソフトウエアを開発し、そのテストをやり直すことになります。このように、実際の交通環境で走行してみると、自動運転車が現実の交通マナーや交通安全に対する期待値と異なる動きをするケースが見つかります。このような新たなシナリオが発見された場合、自動運転車両がどのように振る舞うべきかの検討を全てやり直し、それに対するソフトウエアの再開発を行い、それが問題ないかの再テストを改めて実施することになります。
自動運転、継続的な安全性向上必須
また最近ニュースになっている他社の事例として、サンフランシスコで起こった米自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)の自動運転車子会社クルーズの事故があります。この事故は、自動運転タクシーの隣のレーンを走行していた一般車が横断歩行者をはね、その人が自動運転車の進路に投げ出されてしまい、自動運転車はそれを検知し緊急停止したが停車できず、人が車の下に潜り込んでしまいました。自動運転車両は事故を検出した時には退避動作のために路肩まで移動するようプログラミングされており、その通りに動作した結果、車の下に入ってしまった人を引きずってしまいました。これまでは自動運転車が事故に遭遇した時には、路肩に退避走行するのが安全であるとされてきましが、実際にはそうでない場合があることが見つかった事例になります。
このように規制当局に既に認可を受け商用運行を行っている自動運転車であっても、事前に想定出来ない危険事象が新たに見つかるという事は避けられません。これらのことは、自動運転の安全性を保つために、実際の道路で日々起こる事象を把握し、その中に潜む危険な事象を検出してその対策を続けることが必要であるということを示しています。
従来の自動車は、車を製造した時点が一番安全で、劣化や故障により徐々に安全性が落ちていくという考え方で開発やアフターサービスが行われ、車に対する法規制もその考え方に基づいています。しかし、自動運転車両では、道路を走り始めた後も交通環境の変化や未知の事象に対して継続的に安全性を高めていくことが必要です。つまり、工場で製造された直後よりも、道路を走行している最新の状態の方が安全でなければならないということになります。これは、人が運転免許を取得した後でも日々の交通環境の変化を把握してそれに適応することを続けていかないと、継続的に無事故で運転することができないのと同様です。
自動運転では開発や販売後の運用を従来の自動車と異なる概念で捉えることが大切になり、これまでの考え方を大きく変えることが必要になってきています。次回はこのテーマを深く掘り下げていきます。
Toshihide Ando | 安藤俊秀
ティアフォー・フェロー
2019 年入社。前職ではソフトウエア開発を中心に、自動車の各種電子システム製品などの研究開発に従事。技術本部バイス・プレジデントを経て、現職。
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